日本人

小学生の頃、親友のM君と一緒に下校しているとM君のお母さんが車で通りかかった。
M君のお母さんは僕とM君に「家まで送るよ」と優しく声をかけてくれた。
M君はすぐに車に乗ったが僕は頑なに乗らなかった。
嫌だったわけではなく、迷惑をかけてはいけない一心で単に遠慮した。
そうするべきだと思っていた。
僕は最後まで車には乗らずに歩き、M君とM君のお母さんは車で僕の横を徐行しながら帰っていった。

そして数ヶ月後だったが数年後だったか忘れたが祖母にこういう話をされた。
「人が何かをくれるときは捨ててもいいからもらいなさい」
僕ははじめにこれを聞いたとき、ケチな心でもらえと言っているのだと思った。
もちろん真意はそうではない。
「人の好意を無下にしてはいけない」と言いたかったのだとすぐに理解した。
それに気付いてからM君のお母さんに大変申し訳ないことをしたと思った。
未だに何度も後悔する。
なぜ素直に感謝の言葉を述べて車に乗れなかったのだと。
そうすれば皆が幸せだったのに。

こういう個人的な失敗を一般化してはいけないかもしれないが、謙虚な心を美徳とする日本人には同じような失敗を経験する人が少なくないのではないだろうか。人から好意をもって接してもらったとき、贈り物をもらったとき、一番伝えるべき言葉は「すいませんでした」ではなく「ありがとう」だと思う。

謙虚な心は大事にしたいが、度を過ぎると人の気持ちを害することがあるという戒めの話。